2012年8月26日

不動産のクラウド・ファンディングサイトFundrise


不動産のクラウド・ファンディングサイトFundriseについて、 第1号プロジェクトであるMaketto Buildingを対象に、少し調べてみましたのでメモ。目を通した書類はForm 1-A[PDF]とForm U-7[PDF]です。



・資金調達の目的は?


 ワシントンDCの商業地区にある5,270 square feetのビル(Maketto Building)のリノベーション費用の一部として、325,000ドルを1口100ドルで募集。テナントとしてMaketto10年間入居することが決まっています。Makettoは、Popularise上でアイデアを募った結果決定したコンセプトのレストラン・店舗です。ちなみに、Makettoという名称は、マーケットの日本語読みから来ているそうですが、どう発音されるのでしょうか。。

 改修費用をクラウドファンディングで、というとco-baの資金調達と似ているような気もしますが、co-baでは投資の見返りが利用券やイベント招待等であるのに対し、Fundriseでは、イベント招待やテナントからの割引に加え、配当という経済的リターンがある点が決定的に異なります。


・投資家は何に投資するのか?


(via Form U-7)


 このプロジェクトの関係者が上図にまとめられています。

 投資家が投資するのは、Makettoビル所有会社であるFundrise 1352 H Street LLCのクラスBメンバーシップ(株式会社における株のようなもの)。メンバーシップの1ユニットを100ドルとして、3,250ユニットを上限として募集されています。
 Fundriseによる資金調達前は、Fundrise Fund LLCのみがFundrise 1352 H Street LLCのメンバー(クラスAメンバー)です。目標調達額325,000ドルが集まった場合は、クラスA71.7%、クラスB28.3%の持分割合となります。クラスBメンバーにはLLC運営上の議決権が与えられていません。

 Fundriseのウェブサイト・サービスを運営しているのがFundrise LLC。他に、アセットマネジメントを行うFundrise Fund Manager LLC、開発(設計やリノベーション)のマネジメント行うWestMill Capital Partners LLCなどのプレーヤーが関わっています。上図にあるとおり、これらは仕掛け人であるミラー兄弟(Benjamin & Daniel Miller)の会社ですので、このプロジェクトはほぼ全てミラー兄弟が推進しているといえます。


・投資家は儲かるのか?


 投資家への配当は、Fundrise 1352 H Street LLCの収入からマネジメントフィー、会計監査等の諸費用、ローン返済、修繕積立金などを差し引いたキャッシュから、所有口数に応じて行われます。
 Fundrise 1352 H Street LLCの収入源には、テナントからの固定賃料+変動賃料(テナント利益の3割)、物件売却時利益があります。テナントは実験的業態のため利益がどの程度上がるかは予測できないため、Fundrise上に提示されているリターンでは、固定賃料・物件売却時利益から平均8.4%の投資利回りが見込め、変動賃料があればさらに配当が増えるとされています。
 ところが実際にこの収支見込を詳しく見てみると、物件が値下がりしないことが前提となっていたり、修繕積立金が考慮されていなかったりと楽観的な見込みのようです。物件売却時利益を考慮しない場合、概ね6%程度が確度高く見込める利回りと思われます。

 この6%程度の利回りを、同様に不動産投資・運用会社に投資する仕組みであるアメリカREITと比較してみます。下図を見ると、これまでのREIT配当利回り(Dividend Yield)実績値は、変動はあるものの概ね4%〜8%程度です。REITは通常の株式と同様に簡単に売買できるのに対し、Fundriseでの投資は、市場がなく売却が難しいこともあるので、経済的リターンという意味では、Fundriseプロジェクトへの投資は、それほど優れた投資ではなさそうです。自分の住む地域の建物のオーナーになる、その再生に貢献する、等の心理的なメリットがあるからこそ成り立つものでしょう。

(via REIT.com)


・資金調達として効率的か?


 目標額325,000ドルが集まったとして、その使途の内訳を見ると、その内費用は50,000ドルで、実際に資金調達主体であるFundrise 1352 H Street LLCが使える資金は275,000ドルです。実に調達額の15%も費用として消えてしまうので、あまり効率はよくなさそうですが、地域を巻き込んでいくことで物件価値上昇につながるというメリットはあるのでしょう。


・クラウド・ファンディングサービスとしてFundriseは儲かるのか?


 上記費用50,000ドルの内訳をみると、弁護士・会計費用が45,000ドル、州証券委員会への登録関連費用が5,000ドルとあり、Fundriseへの費用が見当たりませんので、Fundrise LLCとしては直接収入がないようです。
Fundriseと同じくミラー兄弟による会社であるFundrise Fund Manager LLCとWestMill Capital Partners LLCへ、アセットマネジメントフィーやディベロップメントマネジメントフィーが支払われますので、ミラー兄弟としては収益が上がる仕組みのようです。


・資金が集まらなかったらどうするのか?


 クラウドファンディングサイトでは、目標調達額が集まればプロジェクト実行、集まれなければ返金、というAll or Nothing型が多いと思いますが、Fundriseはどうしているのでしょうか。Form U-7に、

While the Units are not offered on an “all or none” basis, this Offering shall terminate on the date that the maximum amount of $325,000 is raised, or, if an amount less than $325,000 is raised, upon the earlier of (1) one year after the effective date of the Offering Circular or (2) a date prior that is so determined by the Manager (the “Offering Period”). 

とありますので、調達額に関わらずにプロジェクトは実行されるようです。さすがにローンを調達して物件を取得し、テナントともリースサイン済の段階で、プロジェクト中止という訳にはいかないのでしょう。他の条文では、不足分は必要に応じて、Fundrise Fund LLCが投資することができることになっています。目標額に達しなかった場合は、Fundrise Fund LLCが不足分を投資するか、調達額に応じて店舗設計を見直してリノベーションする、ということになるのだと推測します。


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